2010-08-30

Kindle 3 を買ったので。

Kindle 3 について

Kindle 2 からの変化を踏まえた、Kindle 3 についての覚え書き。

筐体

小さく、軽くなった。Kindle 2 でもじゅうぶん小さく、軽かったけど。

キーボードが一列減って、数字キーがなくなった。数字は記号と同様 SYM キー経由で入力する。でも意外と困らないよ。というかキーボードはあまり出番がない。

新しい 5-way ナビゲーションキーに慣れない。Kindle 2 のもあんまり操作しやすくなかったけど。Kindle 3 では、 5-way ナビゲーションの下に Back ボタンがあるのだが、下方向を押しているときに間違ってこの Back ボタンに触れてしまい、操作画面が一つ前に戻ってしまうことがある。これはたいへんなストレス。慣れればいけるのかなあ……。

ディスプレイ

Kindle 2 よりも良くなった(黒がより黒くなった)。が、劇的に変わったわけではない。Kindle 2 でもなかなかの品質であった。表示品質のためだけに Kindle 2 から買い換えることはない。

(ちなみに、前に某氏に聞かれて即答できなかった、Kindle ディスプレイの仕様は、 600 × 800 ピクセル、16 階調モノクロ電子ペーパー。)

電子ペーパーを見たことない人にその表示品質を説明するのは難しい。コントラスト的には新聞紙くらいで、それをラミネート加工した感じといえば近いだろうか。

ファイル名やコンテンツで日本語が表示できるようになった

正確にいうと、日・中・韓およびキリル文字のフォントを内蔵した。

これがいちばんありがたい。USB でパソコンとつなげて UTF-8 のテキストファイルを放り込めば、そのまま読める。小さな文書ならわざわざ電子ブックのフォーマットにする必要もない。

日本語の書体は、出自がよくわからないのだけど、独特のゴシック(サンセリフ)体。意外とまともなんだけれども、読書に最適な書体とはいえないことも確か。技術書やビジネス書なら気にならないかもしれないけど。

Kindle 3 で日本語ファイル名の文書を表示

Kindle 3 で書体は 3 種類から選べるようになったが、どの書体を選んでも日本語の書体は変わらない。内蔵フォントによる日本語コンテンツの表示品質に過度の期待はしないように。Kindle 3 になっても日本語の本格的な読書は PDF に頼ることになると思う。

それから、日本語の入力までできるようになったわけではないことに注意。コレクション(タグのようなもの)を作っても、そのコレクションに日本語の名前を付けることはできない。ノートやソーシャル・ネットワーク機能などで日本語を使えれば素晴らしいのだけれど。

あとはまあ当然といえば当然かもしれないけど、日本語の読み上げには未対応。日本語はぜんぶ読み飛ばします。まあしかたない。(PDF 以外での)縦書きも非対応。まあ当たり前。世の中人がやってくれるのを待ってちゃ駄目なことだってある。

とはいえ、ずらっとならんだローマ字の書名から文書を探すのは苦痛だったので、スキャンした書籍や、「青空キンドル」でPDF にした「青空文庫」の作品など、日本語のデータをたくさん Kindle に入れていた人には便利。

なお、PDF の表示では、日本語の文書はこれまで同様フォントが埋め込まれている必要があるのには注意。

WebKit ベースブラウザ

Kindle にもモダンなブラウザが搭載された。しかし相変わらず “experimental” 扱い。ほんとに WebKit で、JavaScript まで動くので、ぴょこぴょこ動くページでは電子ペーパーの表示速度だとかえってつらいのが泣ける。このあたりが実験的とされるゆえんか。

しかし日本語のページも問題なく表示できるので、テキスト主体のブログなどならそのまま読める。それから、日本語が最初から使えることで、ウェブから Kindle 向けにコンテンツを配布できるハードルは下がったと思うから、ユーザーベースでの今後の展開は期待できるかもしれない。

しかしこのタイミングで「青キンDirect」がなくなるのは残念すぎる……。

Kindle 3 で新聞社のサイトを表示
Kindle 3 でテキスト主体のブログを表示

ちなみに、Kindle は(2 も 3 も)ディスプレイの書き換えが遅いので、これをウェブブラウジング用のタブレット端末として使おうというようなことを考えてはいけません。リファレンス的な用途にもまともに使えません。小説やエッセイなどの読みものをじっくり腰を据えて読むのに最適化されたデバイスです。小説を読むことだけに特化されていると言ってもいいくらい。便利デバイスが欲しい人は iPad を買いましょう。

2010-08-15

夏バテの日々。

更新情報

『源氏物語の世界』校訂本文差分」というページを公開。くるってるとでもなんとでも言ってくれ、もうやっちゃったんだから。まじめに作業に集中すればおそらく三か月くらいで終わっただろうけど、だらだらと他のことの合間の合間くらいのペースでやってたので一年半かかってしまった。

源氏物語の本文というデータをウェブで自由に利用できる形で公開してるというのはとても価値のあることだと思う。それが少しでも正確でより良いものとなるのに協力できるのなら悪いことではないでしょう。

それにしても、「源氏物語の世界」のテキストを利用している人のうち、間違いに気づいたらちゃんと報告してる人はどれだけいるのかね!? そういうことも、インターネット時代のリテラシーのひとつだと思うのだけど。

以下この作業にまつわる雑談。

校正といっても、白状しますと本文を読んで目視校正したわけではない。ここで洗い出された疑問点は、基本的には渋谷氏が公開されているデータ自身から見つけ出されたものなのです。

どういうことかというと、「源氏物語の世界」では本文のローマ字版テキストも公開されている。そこで、ローマ字テキストを仮名に機械的に変換し、それをまたプログラムにより本文テキストと付き合わせて整合性を見る(もちろんそれもプログラムでやる)ことで、入力間違いをほぼ自動的に洗い出せる、と。

ローマ字版テキスト: naki tamahu
仮名に変換: なき たまふ
結果: 一致 不一致 
※ ここで本文に入力間違いがあることがわかる。
正規表現に変換: *き たふ
本文テキスト: 泣き たふ

細かいことを省くとこんな感じ。とはいえ、実際には当然ながらローマ字側にも入力間違いがあるので、まずそちらを校正しなければならなかった。また、誤りの個所がわかっても、正しくはどういう語が入るのかについては結局人間が判断して決めなければならない。微妙な例ならほかの全集の源氏物語の本文を引かなければならないものだってある。というわけで、そんなに楽な作業ではないことも確かだったのですよ。しかし結果としてはやってよかったと思う。

もともと僕にはある計画があって、それは自由に利用できる源氏物語の語彙データベースを作るというものです。各単語が分かち書きされているローマ字版テキストの存在は、そのデータベース作成にすごく役に立つ。もとの本文だと単語の区切り目がわからないから。で、ローマ字版と本文との突き合わせ処理をする必要があった。その作業の過程で生まれた副産物が「メカ紫」だったり、今回公開した「校訂本文差分」なわけです。ここ二年くらい僕のやってることは、駄目なのも多いけど、一応ぜんぶつながっているのだ。